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長崎地方裁判所 昭和54年(行ウ)2号 判決

原告 峰誠一 ほか五名

被告 長崎県知事 ほか一名

代理人 小林秀和 手島奉昭 後藤俊郎 本山知 ほか八名

主文

原告興梠正、同興梠正孝、同興梠正之、同小川又一、同嶋本寅雄の被告長崎県知事に対する処分の取消しを求める訴えをいずれも却下する。

右原告らの被告長崎県知事に対するその余の請求及び被告建設大臣に対する請求、並びに原告峰誠一の被告両名に対する請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  (主位的請求)

被告長崎県知事が原告らに対し昭和五〇年二月四日付で長崎国際文化都市建設計画復興土地区画整理事業について別紙換地処分一覧表のとおりなした「従前の土地」欄記載の土地の換地として「換地指定の土地」欄記載の土地を指定し、清算金額を「清算金」欄記載の額と定める処分はいずれも無効であることを確認する。

(予備的請求)

右処分をいずれも取消す。

2  被告建設大臣が原告らに対し、右1の土地区画整理事業につき、昭和五三年一二月一六日付でなした別紙裁決一覧表記載の裁決をいずれも取消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  本案前の申立

1  原告興梠正、同興梠正孝、同興梠正之、同小川又一、同嶋本寅雄の被告長崎県知事に対する訴えをいずれも却下する。

2  右原告らと右被告との間に生じた訴訟費用は右原告らの負担とする。

三  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告長崎県知事は、昭和二一年一二月四日、当時の特別都市計画法に基づき、長崎戦災復興土地区画整理事業(その後土地区画整理法が施行されたことに伴い同法に基づく土地区画整理事業となり、名称も長崎国際文化都市建設計画復興土地区画整理事業となつた。以下本件事業という。)の事業計画を行つた。原告嶋本寅雄を除くその余の原告ら並びに訴外嶋本清吉及び同マスはいずれも別紙換地処分一覧表「従前の土地」欄記載のとおりの土地を所有しており、右各土地はいずれも本件事業の施行区域内に存在している。原告嶋本寅雄は、前記嶋本清吉、同マスの権利を承継した。

2  被告長崎県知事は原告嶋本寅雄を除くその余の原告ら並びに訴外嶋本清吉及び同マスに対し昭和五〇年二月四日付で本件事業について別紙換地処分一覧表のとおり「従前の土地」欄記載の土地の換地として「換地指定の土地」欄記載の土地を指定し、清算金額を「清算金」欄記載の額と定める処分(以下本件処分という。)をなした。

3  換地処分に伴う清算金の交付又は徴収金額を別紙換地処分一覧表「清算金」欄記載の各金額と定める本件処分は憲法二九条三項に明白に違反しているので無効である。

4  仮に本件処分が無効でないとしても取消されるべきものである。

本件処分のうち清算金交付又は徴収に関する部分は憲法二九条三項に違反する違法なものである。仮にそうでないとしても土地区画整理法九四条に違反する違法なものである。仮にそうでないとしても本件事業につき被告長崎県知事が定めた長崎国際文化都市建設計画復興土地区画整理事業施行細則(以下細則という。)一五条二項に違反する違法なもので取消しを免れないものである。

5  被告建設大臣は原告らに対し昭和五三年一二月一六日付で本件事業について別紙裁決一覧表記載のとおり裁決(以下本件裁決という。)をなした。

6  本件裁決は実質において理由を付していない違法があり取消しを免れない。

7  よつて原告らは本件処分につきいずれも、主位的には無効確認を、予備的にはその取消しを、本件裁決につきいずれもその取消しを求める。

二  本案前の主張

原告興梠正、同興梠正孝、同興梠正之、同小川又一、同嶋本寅雄の被告長崎県知事に対する各訴えは、いずれも出訴期間を徒過した不適法な訴えであつて、却下を免れない。

すなわち、右原告らが本件処分につき被告建設大臣に対してなした各審査請求につき、いずれも昭和五三年一二月一六日別紙裁決一覧表記載のとおり裁決がなされ、各裁決書の謄本は、いずれも同月二四日右原告らに送達されているところ、行政事件訴訟法(以下行訴法という。)一四条一項によれば処分取消訴訟は処分があつたことを知つた日から三か月以内に提起しなければならず、同条四項によれば、右期間は、処分につき審査請求をした者については、これに対する裁決があつたことを知つた日から起算するのであるから、右原告らの本件処分取消訴訟は、いずれも遅くとも昭和五四年三月二三日までに提起すべきものである(最判昭和五二年二月一七日民集三一巻一号五〇頁参照)。

しかるに、右原告らの前記本件各訴えは、いずれも右出訴期間経過後である同月二四日に提起されたものであるから、いずれも不適法として却下を免れないものである。

三  本案前の主張に対する答弁

1  原告興梠正、同興梠正孝、同興梠正之、同小川又一、同嶋本寅雄が本件裁決書の謄本の送達を受けたのが昭和五三年一二月二四日であることは認める。

2  被告らは「裁決を受けとつた日も第一日に算入すべきだと主張し、かつそうだとすれば、峰以外の原告は出訴期間を一日経過しているので、被告長崎県知事に対する訴えはすべて却下すべきだ」と主張している。

しかしこの主張は以下の理由により失当である。すなわち、行訴法一四条一項は、「処分又は裁決があつたことを知つた日から三か月以内」と定めているが、その期間の起算日については何ら規定していない。

行訴法七条では「行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による」とあり、民訴法一五六条一項では「期間の計算は民法に従う」とされている。民法一四〇条によると「期間を定めるに……月……をもつてしたるときは期間の初日は之を算入せず」と定めている。したがつて法令上は初日を算入すべきではない。そうだとすれば、裁決を受領した昭和五三年一二月二四日は算入せず、翌二五日を初日として計算すると「三か月の出訴期間」の最終日は昭和五四年三月二四日である。すなわち原告は全員有効に「処分取消の訴え」を適法になしているものといえる。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2項は認める。

2  同3、4項は争う。

3  同5項は認める。

4  同6項は争う。

五  抗弁

1  本件処分は憲法二九条三項に違反していない。

(一) 土地区画整理事業は、都市計画区域内の土地について、健全な市街地造成のために公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図ることを目的として、法の定めるところに従つて行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業である(土地区画整理法(以下法という)一条、二条一項)。

右事業の施行者(法二条三項)は、当該事業にかかる工事が完了した後、従前の宅地に所有権その他の権利を有する者に対し、従前の宅地に換え、整然と区画された一定の土地(換地)を割り当て、従前の宅地の権利関係に何ら特段の変動を加えることなく、これをそのまま換地に移行させる処分、すなわち、換地処分を行う(法一〇三条、一〇四条)。右の換地は、従前の宅地とその位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定められる(法八九条)(照応の原則)。

したがつて、換地処分により、被処分者は従前の宅地についての権利を失うが、これに代わるべきその価値においてほぼ同一である換地についての権利を取得する。右のように、換地処分は、土地についての権利の強制的な交換分合をその特徴とするが、土地収用法による土地の収用等公益事業のために特定の財産権を強制的に取得する、したがつて、これに対する正当な補償を要する公用収用とは、基本的に異なる性質のものなのである。

(二) 換地処分により被処分者が取得する換地の面積は、従前の宅地の面積に比して総体として減少する。しかし、右の地積の減少、いわゆる「減歩」(「公共減歩」及び「保留地減歩」(法九六条))そのものについては、土地の収用と異なり、損失補償がなされることは通常ない。なぜならば、右の減歩は土地区画整理事業の施行に伴うものであるところ、右事業の施行すなわち道路、公園、広場等の公共施設が整備、改善され、宅地が整然と区画されることによつて、換地の面積は減少するものの、その価値は逆に従前の宅地の価値より増進するものであり、従前地と照応する換地が付与されるから、結局のところ減歩による損失が生ずることは通常ないからである。

(三) そして、右の照応の原則に適合する適法な換地処分であつても(したがつて換地処分による損失はなくても)換地設計における技術上の制約等から従前の宅地の利用価値にかかる状況と換地のそれとが完全に一致することは一般にあり得ないので(したがつて、被処分者相互間においても完全に平等の状態の換地処分がなされることは事実上不可能である)法は右の点につき、権利者相互間の公平を図るため、その相互間における清算金の徴収・交付という是正方法を採用したのである(法九四条、一一〇条等)。

換言すれば、右の清算金の徴収・交付の制度は、従前の宅地と換地とが照応していることを前提とした上で、照応の原則に反しない程度の若干の各換地相互の不均衡を是正するための制度であるということができるのである。

(四) 後記の様に、原告らにかかる本件清算金は、各従前の宅地と換地とが照応の原則に適合した後に残る若干の各換地相互の不均衡を是正する趣旨のものであり、宅地の一部喪失に対する補償という性質を全く有していないのである。したがつて原告らの本件処分は憲法二九条三項に違反するという主張は、それ自体失当である。

2  本件処分は次のとおりなされ、違法な点はない。

(一) 路線価指数について

土地の評価方法としては通常、達観式評価方法と路線価式評価方法とが考えられるが、本件事業においては長崎国際文化都市建設計画復興土地区画整理事業施行規程(以下規程という。)一九条において評価の考え方を示し、具体的には規程三一条に基づいて定められた細則一五条により路線価式評価方法によることとされた。

この路線価式評価方法とは、まず街路に面した標準的宅地の単位価格、すなわち路線価を想定し、これを各街路に沿つて布設し、次に具体的な宅地につき標準的な宅地と異つた個別的属性に応じてこの路線価を修正することにより、その価格を求めようとするものであり、細則一五条に規定しているとおり、宅地としての利用価値を街路、接近、宅地の三係数に分解し、それぞれ毎に各条件を客観的数値表により計算する方法で、一般には施行前の最高路線価を一〇〇〇個としている。

この評価方法は、事業施行地区内における各宅地の相対的価格差及びそれらの宅地の事業施行前後の相対的価格差を各宅地の有している条件あるいは将来有することになる条件と関連づけて統一的かつ合理的に秩序立てて把握せんとする方法で、その科学性は広く認められていて、固定資産・相続財産の評価等にも採用されており、また、昭和四〇年以降に換地処分が行われた全国の戦炎復興事業の全部が評価方法として路線価式評価方法を用いているのであつて、清算金及び減価補償金算定のため右の評価方法によることは、法九四条(清算金)及び一〇九条(減価補償金)の趣旨に適う合理的な方法というべきである。

なお、路線価は通常、事業施行前後において付するものであるが、本件においては原子爆弾による壊滅的な被害により、従前地の状態を詳細に把握することが不可能で、換地のみの路線価しか算定できなかつたため、細則九条により整理前各筆評価指数は暫定換地評価指数(暫定換地地積(権利地積(従前地地積(負担義務地積)に付与地積を加えたもの)から原位置付近に於て換地を交付するものとして算定した付表第六号の共通負担地積と、付表第七号による沿道負担地積を差し引いた地積)に整理後路線価指数を乗じたもの)と同一と看做した。

(二) 従前地の評価について

(1) 原告峰誠一所有の長崎市井樋ノ口町二丁目二番地について

右従前地の細則二条三項に所謂「負担義務地積」(本件事業に要する公共用地及び費用の一部を負担する従前地地積をいい、規程一七条一項により昭和二一年九月三〇日現在の土地台帳地積によることとされている。)は「二〇坪」で、同条一項一号のT字角地であつた。

細則五条による「付与地積」(宅地に面する道路がその宅地の利用価値を左右するという考え方に基づき、従前地に含める道路の地積をいい、道路幅員及び間口によりその面積が付与される。)は、当該地は住宅地のT字角地であつたので、正面道路(幅九・七四間)についての付与幅員に宅地が道路に面接する長さを乗じた地積と、側面道路(幅三・五間)について正面道路と同様の計算をした値に付与率三〇パーセントを乗じた地積との合計「一五・三一坪」であつた。

正面道路 三・三五×三・六三=一二・一六

(付与幅員)(間口)(付与地積)

側面道路 一・七五×六・〇〇×〇・三=三・一五

(付与幅員)(間口)(付与率)(付与地積)

付与地積 一二・一六+三・一五=一五・三一

細則二条四項による「権利地積」は、負担義務地積(二〇坪)に付与地積(一五・三一坪)を加えた「三五・三一坪」であつた。

二〇坪+一五・三一坪=三五・三一坪

(負担義務地積)(付与地積)(権利地積)

次に細則六条の「共通負担地積」(本件事業の結果公共用地が増加し、その増加した公共用地(公共の用に供せられる土地)の内道路に沿う宅地が直接負担(沿道負担)しない部分の地積であつて、それぞれの宅地がその面積に応じて平等に負担するもの)は、権利地積(三五・三一坪)に共通負担率(〇・一二七)を乗じた四・四八坪であつた。

三五・三一坪×〇・一二七=四・四八坪

(権利地積)(共通負担率)(共通負担地積)

細則七条の「沿道負担地積」(換地を想定し、整理後道路に接する画地がその面接する道路幅員の一部を直接負担すべき地積)は、権利地積(三五・三一坪)から共通負担地積(四・四八坪)を減じた値(三〇・八三坪)に細則附表第一号より求めた沿道負担率(当該地は、奥行六間、前面道路幅員が三六メートルだつたので〇・四二三となつた)を乗じた「一三・〇四坪」となつた。

(三五・三一坪-四・四八坪)×〇・四二三=一三・〇四坪

(権利地積)(共通負担地積)(沿道負担率)(沿道負担地積)

そこで、細則八条の「暫定換地地積」(出来るだけ原位置またはその付近において交付することを想定した換地地積)は、権利地積(三五・三一坪)から共通負担地積(四・四八坪)及び沿道負担地積(一三・〇四坪)を減じた「一七・七九坪」となる。

三五・三一坪-四・四八坪-一三・〇四坪=一七・七九坪

(権利地積)(共通負担地積)(沿道負担地積)

「整理前評価指数」は、細則九条により暫定換地地積(一七・七九坪)に整理後路線価指数(二四一個)を乗じた「四二八七個」となり、同条の「坪当評価指数」は四二八七個を負担義務地積(二〇坪)で除した二一四・三五個となるが、これを便宜上端数整理して「二一四個」とし、整理前評価指数を負担義務地積(二〇坪)に坪当評価指数(二一四個)を乗じた「四二八〇個」と看做した。

一七・七九坪×二四一個=四二八七個

(暫定換地地積)(整理後路線価指数)

四二八七個÷二〇坪=二一四・三五個

(負担義務地積)

(2) 原告峰誠一所有の長崎市銭座町二丁目四番地一について

右従前地において細則二条三項における「負担義務地積」は「二四・三八坪」で、同条一項五号にいう普通地であつた。

細則五条による「付与地積」は、付与幅員に宅地が道路(前面道路幅員は四・七〇間)に面接する長さを乗じた「八・七四坪」であつた。

二・三三×三・七五=八・七四

(付与幅員)(間口)(付与地積)

細則二条四項による「権利地積」は負担義務地積(二四・三八坪)に付与地積(八・七四坪)を加えた「三三・一二坪」であつた。

二四・三八坪+八・七四坪=三三・一二坪

(負担義務地積)(付与地積)(権利地積)

次に細則六条の「共通負担地積」は、権利地積(三三・一二坪)に共通負担率(〇・一二七)を乗じた「四・二一坪」であつた。

三三・一二坪×〇・一二七=四・二一坪

(権利地積)(共通負担率)

細則七条の「沿道負担地積」は権利地積(三三・一二坪)から共通負担地積(四・二一坪)を減じた値(二八・九一坪)に細則附表第一号より求めた沿道負担率(当該地は、奥行六・五間、前面道路幅員が八メートルだつたので〇・二五四となつた。)を乗じた「七・三四坪」となつた。

(三三・一二坪-四・二一坪)×〇・二五四=七・三四坪

(権利地積)(共通負担地積)(沿道負担率)(沿道負担地積)

そこで、細則八条の「暫定換地地積」は、権利地積(三三・一二坪)から共通負担地積(四・二一坪)及び沿道負担地積(七・三四坪)を減じた「二一・五七坪」となる。

三三・一二坪-四・二一坪-七・三四坪=二一・五七坪

(権利地積)(共通負担地積)(沿道負担地積)(暫定換地地積)

「整理前評価指数」は、細則九条により暫定換地地積(二一・五七坪)に整理後路線価指数(一四九個)を乗じた「三二一四個」となり、同条の「坪当評価指数」は三二一四個を負担義務地積(二四・三八坪)で除した一三一・八三個となるが、これを端数整理して「一三一個」とし整理前評価指数を負担義務地積(二四・三八坪)に坪当評価指数(一三一個)を乗じた「三一九三個」と看做した。

二一・五七坪×一四九個=三二一四個

(暫定換地地積)(整理後路線価指数)

三二一四個÷二四・三八坪=一三一・八三個

(負担義務地積)

(三) 換地の評価について

原告峰誠一の従前地二筆に対する換地長崎市宝町五一番地は次のように評価した。

換地地積は「三一・九〇坪」、画地は正背地(正面及び背面が道路に面している土地)、また、当該地区は幹線道路に面した所でもあり、中心商業地にもすぐ近い所でもあるので将来を考えこれを商業地と看做した。

奥行及び間口は、それぞれ六・一六間及び五・七八間であるので、細則二一条及び二二条の奥行修正(宅地各筆の奥行は、その長短によつて宅地の利用価値に影響を及ぼすので、当該路線価にその奥行長に応じ奥行逓減率を乗じて行う修正)及び間口修正(宅地の間口が狭少である場合に、その利用価値が減殺されるので、間口に応じて行う修正)は、細則附表第八号の一及び第九号により行う必要はなかつた。

次に当該地は、正背地で、細則二七条二項の等価点(両路線価に比較的差が少なくかつ奥行が長い場合に、両路線価とも画地の中央部に向つてその単独価格が逓減し、両路線価が等価で合する点のことをいう)が求められない場合(右のとおり、当該地は奥行修正を必要としなかつた)であるため、「背面路線影響加算」を行う必要があつた。

この指数は、当該地を商業地と看做したので、細則二七条三項により奥行を一・〇間として計算した結果「九八二個」となり、換地の評価指数は「八六六九個」となつた。

普通地としての評価指数 二四一×三一・九〇=七六八七個

(路線価指数)(換地坪数)

背面加算 一九〇×一・〇〇×五・一七=九八二個

(路線価指数)(奥行) (間口)

換地の評価指数 七六八七個+九八二個=八六六九個

「換地の評価指数」(八六六九個)を換地地積(三一・九〇坪)で除した値二七一・七六個が換地の「坪当評価指数」となるが、便宜上これを端数整理して「二七一個」とし、換地の評価指数を換地地積(三一・九〇坪)に坪当評価指数(二七一個)を乗じた「八六四五個」と看做した。

八六六九個÷三一・九〇坪=二七一・七六個

(評価指数)(換地地積)

二七一個×三一・九〇坪=八六四五個

(四) 本件事業施行前後の宅地の総価額について

本件事業施行前後の宅地の総価額は左の指数である。

本件事業施行前の宅地の総価額(指数) 一億〇六九〇万八五四三個

本件事業施行後の宅地の総価額(指数) 一億〇七五三万四九三八個

(1) 減価補償金について

右指数から明らかなように、本件事業においては減価補償金の交付を要しないものである(法一〇九条)。

(2) 比例率について

「比例率」とは規程二一条に定める「従前の土地の評定価額総額に対する換地の評定価額総額の比」をいい、本件事業については二、四、五、六及び七工区については工事が遅れたこと等の理由により、換地処分が残りの一、三及び八工区よりもかなり後になつたため、比例率についても二、四、五、六及び七工区と残りの工区を別々に算定し、二、四、五、六及び七工区については「一・〇〇四一八五」となつた。

比例率

五七、三〇六、九七七÷五七、〇六八、一四五=一・〇〇四一八五

(換地の評定価額総額指数)(従前地の評定価額総額指数)

(五) 清算金について

原告峰誠一については「整理前評価指数」(従前地長崎市井樋ノ口町二丁目二番地及び銭座町二丁目四番地一の評価指数が「七四七三個」、「比例権利指数」(整理前評価指数に比例率を乗じたもの)が「七五〇三個」となり、「換地の評定価額」が「八六四五個」であるから、指数で「一一四二個」の徴収となる。

(六) 指数単価の評価時期について

(1) 本件清算金は、換地設計における技術的制約等から各換地指定により生ずるところの、本件事業による宅地の利用増進という事業効果の配分に関する若干の不均衡を、宅地の権利者相互間における金銭の授受という方法により調整する趣旨のものであるから、これを適切に算定するためには、その前提として先ず、本件事業による宅地の利用増進という効果を、各宅地(換地)につき、的確に把握しなければならないことはいうまでもない。

(2) 而して、本件事業による宅地の利用増進という効果は、所要の工事が概ね完了し、各仮換地について使用、収益がなされることによりその度合が顕在化するのであるが、その後は、時間の経過と共に本件事業以外の要因により右仮換地の利用状況が変化し、評価の要素も変わつてくるところから、本件事業による宅地の利用増進効果の測定につき事業以外の要因によるものが混入することを排除し、各宅地(換地)についてこれを的確に把握するためには、右の工事概成時をもつて宅地評価の基準時とすることが合理的なのである(同旨、福岡高判昭和五五年四月二二日行裁例集三一巻四号九六一頁(原告ら援用の熊本地裁昭和五三年一月三〇日判決の控訴審判決である。)、なお、東京高判昭和五三年八月一日行裁例集二九巻八号一四〇一頁参照)。

(3) 本件事業にあつては、昭和二一年一二月四日事業計画を決定、本件事業にかかる工事に着手し、右工事の進捗に伴い同二三年以降逐次換地予定地(仮換地)の指定をなし、これを使用、収益せしめ、所要の工事は同三四年三月末日をもつて一応の完了をみた。この間昭和三〇年度までに総事業費の約九〇パーセントを消化し、換地予定地の指定も概ね完了している。また公共施設については、公園及び上下水道が一〇〇パーセント、建物移転が八七・三パーセント、街路が八四・八パーセント昭和三〇年度までに完了している。そこで、右の工事概成時である昭和三〇年をもつて、本件事業による宅地の利用増進の度合が顕在化した時点とみて、清算金算定の基準時すなわち宅地評価の基準時としたものである。

(4) 原告らは、清算金は換地処分の公告のあつた日の翌日において確定する旨の規定(法一〇四条七項)を根拠として、宅地の評価の基準時は換地処分時であるべきで、それを工事概成時(昭和三〇年)としたのは違法である旨主張するが失当である。すなわち、法一〇四条七項の規定は、換地処分の公告の翌日において清算金の徴収、交付にかかる権利者、義務者、金額等の具体的法律関係が確定するということを意味するにとどまり、右以上に清算金の算定の基準時すなわち宅地の評価の基準時が換地処分時であるべきことを定めるものではなく、実質的にも本件においてそのように解すべき合理的理由は何ら存しない。

ちなみに、昭和四〇年以降に換地処分が行われた全国の戦災復興土地区画整理事業(本件事業もその一つである。)のほぼ全部が、本件事業と同様、工事概成時をもつて宅地評価の基準時としているところである。

(七) 指数単価の決定について

(1) 評価時点(昭和三〇年)における施行地区内の標準地にかかる固定資産税課税標準価格を基礎とする算定方法

〈1〉 標準地(一三六箇所、地積合計一万五二八八坪六〇)にかかる固定資産税課税標準価格の総額六七二二万九三四七円

〈2〉 右標準地にかかる評価指数の総数 二二四万一〇九五個

〈3〉 右〈1〉を〈2〉で除して評価指数単価を求めると、二九・九九円となる。

(2) 財産税法(昭和二一年法律五二号)及び資産再評価法等に基づく算定結果

〈1〉 標準地(賃貸価格の均衡を考慮して施行地区内の宅地三四〇筆を選定、地積合計一万六一〇五坪九二)にかかる財産税法に基づく評価額の総額 三八一万〇八二二円

〈2〉 右〈1〉の価格の資産再評価法等に準拠して求めた本件評価時点である昭和三〇年における価格 一億〇四六〇万七〇六四円

〔算式〕3,810,822円×15(イ)×1.83(ロ)≒104,607,064円

(イ) 資産再評価法二一条、別表第七等参照。ただし、土地の取得の時期は、本件事業の事業計画決定の時期に徴し昭和二二年一月とした。

(ロ) 日本不動産研究所発表の全国市街地価格推移表により求めた昭和二八年三月から昭和三〇年三月までの土地価格の上昇率。

〈3〉 右〈1〉の標準地にかかる評価指数の総数 三六三万五一〇六個

〈4〉 右〈2〉を〈3〉で除して評価指数単価を求めると、二八・七七円となる。

(3) 本件事業においては、評価指数単価の算定につき、右(1)の算定方法を基本とし、右により得た数値の妥当性が右(2)の方法による算定結果等によつても基礎づけられたところから、右単価を三〇円と決定したものである。

(4) 原告らは、清算金は宅地の一般取引価格(時価又は公示価格)を基礎として算定すべきであるから、「固定資産税課税標準価格」を基礎として算定したのは違法である旨主張するが失当である。

原告らの右主張は、徴収または交付にかかる清算金の性質がそれぞれ、減歩された宅地に対する不当利得金または損失補償金であることをその前提とするものであるところ、既に繰り返し述べてきたところから明らかなように、本件清算金は、原告らにかかる従前の宅地と換地とが照応している(原告らもこの点は争わない。)のであるから、本件事業による宅地の利用増進という事業効果の配分に関する若干の不均衡を、宅地の権利者相互間における金銭の授受という方法により調整しようとする趣旨のものであつて、不当利得金の徴収または損失補償金の交付という性質を有するものではないから、原告らの右主張はその前提において既に失当といわなければならない。

ところで、固定資産税は、収益的財産税であつて、その課税客体たる固定資産は、その性質上一般の商品のように流通して価値を生み出すものではなく、継続的に使用、収益する価値に着目して所有されるものであり、したがつてその課税標準である固定資産の価格の評価は、処分価格としての評価ではなく、収益価格としての評価とされている。

而して、前述のように、本件清算金が、不当利得金の徴収または損失補償金の交付という性質を有するものではなく、換地相互間の利用価値の増進にかかる不均衡を調整する趣旨のものであること、しかも右の調整が宅地の権利者相互間における金銭の授受という方法によりなされるものであること、さらに、広大な面積にわたる多数の従前の宅地及び換地の双方について、同一時点において公平かつ迅速に右の評価を行うことが要請せられる土地区画整理事業の特質等に鑑みれば、本件清算金の算定の前提となる宅地の評価につき、右の固定資産税課税標準価格を基礎としたことは、合理的であるというべきである(同旨、前掲東京高判昭和五三年八月一日(ただし、事案は相続税財産評価基準の路線価を基礎としたもの。)、同福岡高判昭和五五年四月二二日判決)。

(八) 原告峰誠一の清算金額について

(五)で算出した指数一一四二個に(七)で決定した「指数単価三〇円」を乗じ、「三万四二六〇円」の徴収となつた。

(九) 土地区画整理法は、清算金の具体的な算定方法については何ら規定することなく、これを施行者の裁量に委ねているところである。前述のところからして、本件清算金の算定方法は、本件清算金の本質及び本件土地区画整理事業の特質に適合した相当なものであり、施行者に委ねられた裁量の範囲を逸脱した著しく不合理なものとは到底いうことができないことは明らかである。

3  本件裁決には何ら固有の違法な点はない。

(一) 原告らは、『裁決書の理由2、(2)では特別都市計画法一六条では減歩一割五分以上の分については必ず補償をなす旨明示されていたのに、法一〇九条によれば、損失補償があるかの如く規定されているが、現実には全く補償される例がない。その比較の説明はなされていない違法がある。また、「同法九四条で清算を実施した」と記しただけで、指数一個が三〇円と算出されたこと、その三〇円の算出根拠なども全くふれていない違法がある(その三〇円の評価自体が違法な額ではあるが。)。これでは、形式的に理由は付しているが、実質的には理由としての価値がなく、裁決自体を取消すべき違法がある。』と述べ、裁決に固有の違法がある旨主張して裁決の取消しを求めているようであるが失当である。

原告ら指摘の理由2、(2)項では、

「(都市)計画法は、一律に、一割五分以上の減歩を伴う事業についてのみ補償金を交付することとしていたが、昭和二四年法律第七一号をもつて「施行後の宅地価格の総額が施行前の宅地価格の総額に比し減少したとき補償金を交付する」旨に改正され、利用増進の有無を基準とするより合理的な補償制度に改められたものである。改正後の同法の規定の趣旨は法一〇九条の規定に承継されているのであるから、本件事業の処分庁が法九四条の規定にのつとつて清算を実施したことは何ら違法又は不当とされるものではない。」と原告らの「昭和五〇年二月の清算金では一期分の固定資産税を納めればなくなる金額なので一割五分以上の分は土地の現在地価相場価格にて清算を求める」との請求を棄却する理由を述べているので何ら理由不備の瑕疵はない。

仮に、原告らが主張するような右事由が本件裁決の固有の違法にあたるとしても、結局は原告らが「清算金」処分の無効又は取消しを求める趣旨である以上、上述のような指数一個の三〇円算出根拠等の理由付記の不備を理由に本件裁決を取り消すことは全く意味がないことというべきであろう。けだし、被告らは本件訴訟で三〇円の算出根拠について詳述しかつ立証していることから理由不備の瑕疵は本件訴訟で治ゆされたというべきであり、原告らの主張は理由がないというべきである(最判昭和三七年一二月二六日民集一六巻一二号二五五七頁)。

六  抗弁に対する認否

1  抗弁1項は争う。

本件処分は以下に述べるとおり憲法二九条三項に明白に違反している。

(一) 憲法二九条は私有財産制を認めた上で、その「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と規定している。

(二) 土地収用法七一条では「収用する土地に対する補償金の額は近傍類地の取引価格等を考慮して算定する」と明示し、時価に近い補償をすることとなつている。道路や河川を整備する際によく土地収用法が適用される。市街地区域の整備の際には土地区画整理法が用いられる。この場合にも大体は道路や河川が整備される。すなわち土地収用法の場合は、土地が買収(収用)される。また土地区画整理法適用の場合も常に減歩の上換地が指定される。すなわち減歩された範囲においては「土地の一部収用」に該当する。したがつて、土地収用法適用の場合の補償金(収用価格)に比べて、土地区画整理法適用の場合の清算金の額が著しく均衡を欠く場合には「正当な補償」とはいえないであろう。土地収用法七一条は取引事例も重視している。そして昭和四四年に施行された地価公示法一〇条によれば、同年以降においては、土地収用法七一条で相当価格を算出するには同法に基づいて公表される公示価格を考慮すべきこととされている。公示価格は、一般の取引価格の六〇パーセント程度のものであるといわれているが、土地区画整理法適用の場合であつても減歩された坪数に、公示価格を乗じて得た額位は最少限補償されるべきものと思料する。本件土地は長崎駅に近い所である。昭和五〇年の公示価格(番号七―一)宝町の部分と同視してよい。宝町は一平方メートル当り昭和五〇年において九万七〇〇〇円で、一坪では三二万〇六六二円である。「正当な補償」とは、換地処分のなされた時点(昭和五〇年)の時価価格を減歩された面積に乗じて算出すべきものであり、時価とは坪当り三〇万円が相当である。

(三) 原告峰誠一は、一二・四八坪、同興梠正は、五五・八九坪、同興梠正孝は、一五・八八坪、同興梠正之は、一九・九六坪、同小川又一は、三六・三〇坪、同嶋本寅雄は、四四・八八坪を減歩されている。すなわち、右坪数だけ実質は強制収用されている。

ところが、本件処分は興梠正には、金一六万九三八〇円を、興梠正孝には、金四万九一一〇円を、興梠正之には、金六万六三九〇円を、嶋本寅雄には、金三六六〇円を各交付、峰誠一からは、金三万四二六〇円を、小川又一からは、金四万〇九七〇円を各徴収するという内容である。本件処分の内容は明らかに国民の常識からかけ離れた金額であり、憲法二九条にいう「正当な補償」とは全くかけ離れたものである。

(四) よつて、坪当り金三〇万円の補償を原告らに対してなすべきなのに、前述の如き金額の清算金を交付、徴収するとした本件処分は憲法二九条の規定に著しく、明白に反するので無効である。

2  同2項中、土地の評価が路線価式評価法によることは認め、主張は争う。

(一) 被告長崎県知事の清算金額の算出の違法性について

(1) 土地区画整理法は九四条で清算金の制度を定めている。清算金の性質については原・被告の認識には違いがある。被告らは工事区域内の権利者間の不均衡是正の制度だという。しかし、被告らも自認する通り、換地不指定の場合(法九〇条、九一条三項、九二条三項、九五条六項)にも清算金が支払われる。これは結局提供地の収用(補償)である。区画整理はほとんどの場合減歩を伴うから、減歩された範囲は収用されたことになる。原告らは減歩されて換地は狭くなつた。環境が区画整理で悪化した。固定資産税が高くなつた。狭くなつた分はやはり公共収用されたという認識が強い。したがつて、換地処分はやはり「土地の一部収用と交換分合」と理解するのが最も正しい理解である。

(2) しかるに被告らが算出した清算金は土地の一部収用に対する損失補償というにはほど遠い内容となつている。その理由は次のカラクリの中にある。すなわち、先ず従前地の権利価格と換地の評定価格(又は権利価格)との差を出すところの比例清算方式を採用したという。法には清算金の算出方法は全く法定されていない。したがつて各起業者が自由になしている。本件の場合、長崎県が勝手に規程、細則を定めて行つている。県は細則一五条で路線価方式をとることにしている。一評価指数の金額換算に関する規定としては細則一五条二項と一九条があるだけである。細則一五条二項によると、標準地評価額は、イ、市の固定資産評価、ロ、登記所の売買による登記価格、ハ、一般の売買価額、ニ、税務署、銀行等の評価額、を参考にして原案をつくるべきこととなつている。しかるに本件ではこの細則一五条、一九条をも無視して、昭和三〇年度の長崎市固定資産税課税標準価格を基準にして標準地の評価額を出し、右のイだけを参考にして、ロ、ハ、ニを無視している。標準地、換地の評価額は、時価によるべきであり、そうでなくても少なくとも「公示価格」によるべきであることは前述した。百歩譲つて、規程、細則によるべきだとしても、被告らはこの規程、細則にも従つていない。この点でも本件処分は違法である。

(3) 算出の基準日

換地処分は、従前の宅地の所有権を含めた権利全部が換地に移行する行政処分である。換地処分の公告の日の翌日(本件処分では昭和五〇年二月)を境に、従前の宅地への権利が換地へ移転する。又清算金も換地処分の公告のあつた翌日確定する(法一〇三条一項・四項、一〇四条七項)。

そうだとするならば、宅地の評価は、換地処分時とすべきである。

被告長崎県知事が昭和三〇年を基準時としたのは違法である。

(二) 熊本地判昭和五三年一月三〇日行裁例集二九巻一号六一頁は次の通り判示している。

被告熊本市長は土地の評価につき路線価方式を用いている。路線価方式が適正に行われれば、合理的な評価方式である。清算金は損失補償の性質を有するものである。しかるに工事完了時点である昭和三六年当時の市の固定資産評価額を基準にして指数単価を二二円五〇銭と評価したのは合理性に欠ける。評価の基準時は、「換地処分公告の日である昭和四五年」とすべきである。市の固定資産評価額は一般取引価格時価に比べ著しく低廉であることは公知の事実であり、これを基準としたのでは適正でない。よつて、本件処分は取消す。という内容である。

3  同3項は争う。

本件裁決書の理由をみれば、理由2、(2)では特別都市計画法一六条では減歩一割五分以上の分については必ず補償をなす旨明示されていたのに、法一〇九条によれば、損失補償があるかの如く規定されているが、現実には全く補償される例がない。その比較の説明はなされていない違法がある。また、「同法九四条で清算を実施した」と記しただけで、指数一個が三〇円と算出されたこと、その三〇円の算出根拠なども全くふれていない違法がある(その三〇円の評価自体が違法な額ではあるが。)。これでは、形式的に理由は付しているが、実質的には理由としての価値がなく、裁決自体を取消すべき違法があるというべきである。

第三証拠 <略>

理由

第一  被告長崎県知事により土地区画整理事業である本件事業が実施されたこと、原告嶋本寅雄を除くその余の原告ら並びに訴外嶋本清吉及び同マスに対し昭和五〇年二月四日別紙換地処分一覧表記載のとおり本件事業の換地処分の通知がなされたこと、原告嶋本寅雄が前記嶋本清吉、同マスの権利を承継したこと、原告らが被告建設大臣に対し本件処分につき審査請求をなし、被告建設大臣は昭和五三年一二月一六日裁決をなしたこと、右裁決書の謄本が原告峰誠一を除くその余の原告らについては同月二四日に送達されたことは当事者間に争いがない。

第二  原告らは換地処分に伴う清算金の交付又は徴収金額を別紙換地処分一覧表「清算金」欄記載の金額と定める本件処分はいずれも憲法二九条三項の趣旨に明白に違反するから無効である旨主張し、被告らは原告峰誠一を除くその余の原告らについては本訴は不適法であり、また本件処分は同条項に違反せず無効でない旨主張するので、以下検討する。

一  まず、行政処分の無効等確認の訴えについては出訴期間を制限する規定はなく、一件記録によるも本件処分の無効確認を求める訴えを不適法とすべき事由は認められないから本件処分の無効確認を求める訴えはいずれも適法というべきであり、この点に関する被告らの前記主張は採用できない。

二  次に、土地区画整理事業とは都市計画区域内の一定範囲の土地について公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため土地区画整理法で定めるところに従つて行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業であつて、これによつて健全な市街地の造成をしようとするものである。そして土地の区画形質が変更されることや公共施設の新設及び事業費用の捻出のための用地としてかなりの地積が充てられることから、通常従前地とは必ずしも同一でない場所において、多かれ少なかれ減歩された宅地が換地として指定されているが、このような減歩それ自体によつて直ちに財産権の侵害があつたということはできない。なぜならば、このような土地の減歩は健全な市街地造成のために土地所有者等が受忍すべき財産権に対する社会的制約であり、また、土地区画整理事業によつて宅地の利用価値の増加が見込まれるのであるから、地積が減縮しても宅地の利用価値の増加により直ちにその交換価値に損失を与えることにはならないと考えられるからである。しかして法八九条一項は換地を定める場合において、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない旨規定し、いわゆる照応の原則に基づき、従前地と換地の価値が均衡するよう換地処分をなすべき旨定め、原則として換地処分に伴う損失が生じないよう配慮しているが、具体的な土地区画整理事業においては、公益上の必要及び換地設計上の技術的理由から、換地相互間に若干の不均衡が生ずることはやむを得ないところであつて、その不均衡を金銭でもつて是正しようとするのが清算金の制度であると解される(法九四条参照)。なお、法九四条は、換地がなされる場合に限らず、換地不指定の場合(法九〇条、九一条三項、九二条三項、九五条六項)にも清算金による清算を要する旨規定しているけれども、この両者の場合における清算金はその性格を異にするものというべきである。すなわち、後者の場合については、本来照応の原則が適用される余地はなく、その権利者は公共事業たる土地区画整理事業遂行のために土地を提供したような結果になるから、交付される清算金は、実質的には土地の喪失に対する損失補償としての性格を有することになるのに対して、前者の場合の清算金は、土地区画整理事業の施行による宅地の利用増進という事業効果を当該施行地区内の宅地等の権利者に配分した場合に生ずる不均衡を是正するためのものであつて、損失の補償としての性格を有さないものと解されるからである。

以上説示したところによれば、本件処分に伴う清算金をもつて本件事業により減歩された地積に対する損失補償金であることを前提とする原告らの前記主張がその前提において採用し難いものであることは明らかである。

第三  次いで原告らは本件処分は違法であるから取消されるべきである旨主張し、被告らは原告峰誠一を除くその余の原告らについては本訴は不適法であり、また本件処分は何ら違法でない旨主張している。

一  よつて検討するに、行政処分の取消を求める訴えは行訴法一四条一項により処分があつたことを知つた日から三か月以内に提起しなければならず、同条四項によれば、右期間は処分につき審査請求をした者についてはこれに対する裁決があつたことを知つた日から起算するものとされている。而して、同条項の文理からすれば初日を算入して計算すべきものと解するのが自然であるのみならず、行訴法と同時に一括して立法作業が行われ国会においても同時に一括して審議された行政不服審査法一四条一項が「処分があつたことを知つた日の翌日から起算して」と規定していることとの比較からしても、行訴法一四条四項においては初日を算入して期間を計算すべきものと解するのが相当である(最判昭和五二年二月一七日民集三一巻一号五〇頁参照)。本件についてみれが、前記のとおり原告峰誠一を除くその余の原告らは、本件処分につき被告建設大臣に審査請求をなし、いずれも昭和五三年一二月二四日これに対する裁決書の謄本の送達を受けているのであるから、同原告らは遅くとも同日までには本件裁決を知つたことになり、したがつて、同原告らが本件処分の取消しを求めるには遅くとも昭和五四年三月二三日までに出訴しなければならないことになる。しかるに同原告らがいずれも同月二四日に本訴を提起していることは本件記録上明らかであるから、同原告らの本件処分の取消しを求める訴えはいずれも不適法であり、却下を免れない。

二  そこで原告峰誠一についての本件処分に取消されるべき違法があるか否かについて判断する。

1  本件事業において、土地の評価方法としていわゆる路線価式評価方法が採られたことについては当事者間に争いはない。路線価式評価方法とは、宅地の価格を求めるに当たつて、まず街路に面した標準的な宅地の価格、すなわち路線価を想定し、これを各街路に沿つて布設し、次に具体的な宅地につき標準的な宅地と異なつた個別的属性に応じてこの路線価を修正することにより、その価格を求めようとするものであり、宅地としての利用価値を街路、接近、宅地の三係数に分解し、それぞれごとに各条件を客観的数値表により計算する方法である。而して路線価式評価方法は土地区画整理事業施行地区内における各宅地の相対的価格差及びそれらの宅地の右事業前後の相対的価格差を、各宅地の有している条件あるいは将来有することになる条件と関連づけて、統一的かつ合理的に秩序立てて把握しようとする方法で、その科学性は広く認められていて、固定資産、相続財産の評価等にも採用されており、また<証拠略>によると昭和四〇年以降に換地処分が行われた全国の戦災復興事業の全部が評価方法として路線価式評価方法を用いていることが認められるから、土地区画整理における清算金の算定のための土地の評価について右の方法によることは、法九四条の趣旨にかなう合理的な方法というべきであり、この点に関する被告らの主張は肯認すべきものと考える。

2  ところで、路線価式評価方法による場合、路線価は通常事業施行前後において付するものであるところ、本件事業施行区域が、昭和二〇年八月九日の原子爆弾の投下により壊滅的な被害を被つたことは当裁判所に顕著な事実であり、<証拠略>によれば、右被災の結果事業施行前の宅地について前述した三係数のうち特に宅地係数を求めることができなくなり、結局事業施行後の路線価しか算定できなかつたこと、そこで、本件事業においては細則九条により以下に述べる暫定換地地積に事業施行後の路線価指数を乗じた値(暫定換地評価指数)を事業施行前各筆の評価指数とする方法が採用されたこと、細則二条六項、五条、八条によれば、暫定換地地積とは、従前の宅地の地積(負担義務地積)にその形状に応じて付与地積を加えた地積(権利地積)から原位置付近に於て換地を交付するものとして算定した細則付表第六号の共通負担地積と同付表七号による沿道負担地積を差し引いた地積を指すものであることが認められこれに反する証拠はない。

而して本件事業における事業前各筆の評価指数を右に述べたような方法により求めたこと自体についてこれが不相当であつたことを窺わせるに足りる資料は見当たらないし、前記のとおり本件事業施行当時本件事業施行区域内が原爆による壊滅的な被害を被つていたことに鑑みれば、右方法は本件事業の施行に適合した合理的な評価方法であるというべきである。

3  <証拠略>を総合すれば、原告峰誠一が従前所有していた長崎市井樋ノ口町二丁目二番地の整理前評価指数は四二八〇個、同市銭座町二丁目四番地一の同評価指数は三一九三個で、その合計は七四七三個となること、右二筆の従前地に対する換地として同原告に割当てられた同市宝町五一番地の評価指数が八六四五個となること、同原告の前記従前地が含まれる本件事業の第二工区の比例率が一・〇〇四一八五となるため、右従前地についての比例権利指数は七五〇三個となること、その結果、同原告の清算金は指数で一一四二個の徴収となることなど抗弁2の(二)ないし(五)、(六)の(3)、(七)の(1)ないし(3)及び(八)記載の被告らの主張事実をすべて認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  ところで、原告峰誠一は、本件処分に伴う清算金を算定するに当たつての土地の評価は換地処分時における取引価格(時価又は取引価格)によるべき旨主張する。

しかしながら、土地区画整理事業の施行地区内において、工事が概ね完了すると、各仮換地について使用収益が開始されることにより利用増進の度合いが顕現化するのであるが、その後は時が経過するにつれて土地区画整理事業以外の要因により各仮換地の利用状況が変化し、評価の要素も変わつてくるので、右のような要因を排除して事業による宅地の利用増進の効果を測定するためには、工事が概成した時点で清算金算定のための土地の評価をすることが合理的であるし、また本件処分に伴う清算金が前述のように本件事業の施行による宅地の利用増進という効果の配分に関する若干の不均衡を宅地の権利者相互間における金銭の授受という方法により是正しようとする趣旨のものであることのほか、施行区域内の広大な面積に及ぶ多数の従前地及び換地の双方につき同一時点で公平かつ迅速に右の評価をすることが要請される土地区画整理事業の特質に鑑みれば、前記清算金の算定に当たつての土地の評価につき、固定資産税課税標準価格を基礎としたことは合理的であるというべきであつて、同原告の前記主張は採用することができない。のみならず、同原告の前記主張は、前記清算金をもつて本件事業により減歩された地積に対する損失補償金であることを前提とするものであるところ、この前提が採用し得ないものであることは前説示のとおりであるし、仮に、前記清算金の算定が不当に低いものであつたとしても、このこと自体は、前記認定のとおり同原告が清算金を徴収される立場にある以上、結局のところ同原告に何らの不利益を及ぼすものではないのであるから、本件処分を取消す理由とはなり得ないというべきであつて、いずれにしても同原告の前記主張は失当たるを免れない。

以上のとおりであるから、同原告についての本件処分を取消すべき違法は何ら存しないものと認められる。

第四  そこで被告建設大臣のなした本件裁決の適法性について判断する。

<証拠略>によれば、原告らは本件処分の審査請求を被告建設大臣になした際、もつぱら特別都市計画法一六条一項により一割五分を超える減歩分について時価による補償を求めていたこと、これに対し、被告建設大臣は裁決書理由2の(2)において、同条項がその後の法改正により廃止され、その趣旨が法一〇九条に引き継がれているのであるから、本件事業の処分庁が同条にのつとつて清算を実施したことは何ら違法又は不当とされるものではない旨原告らの審査請求を棄却する理由を述べていることが認められ、右認定に反する証拠はない。してみると、本件裁決はいずれもその実質において理由が付されていると解するのが相当である。その他本件全証拠によるも本件裁決には、いずれも取消すべき違法事由は窺われない。

第五  以上によれば、原告峰誠一を除くその余の原告らの被告長崎県知事に対する本件処分の取消しを求める訴えはいずれも不適法であるので却下し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないので棄却し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渕上勤 土肥章大 加藤就一)

換地処分一覧表 <略>

裁決一覧表 <略>

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